
トランプは本当に経済の”破壊者”なのか
2018.05.17
2018.05.17
山中優宏
現在、米中の貿易摩擦が激化しています。中国の知的財産権侵害を理由に、アメリカが中国のハイテク製品などを対象に高関税をかけると表明し、対する中国も報復措置を公表するなど、両者のにらみ合いが続いている状況です。
その他にもアメリカは、関税上げを武器に、各国にアメリカとの貿易見直しを迫っています。
このように、現在のトランプ政権の貿易政策は「保護主義」的であることが伺えます。
戦前のブロック経済がWWⅡの原因となったことの反省から、戦後の経済では原則、自由貿易が良いとされてきました。
よって、トランプ大統領の保護貿易政策は、「経済を混乱させ、破壊する行為だ」と、経済学者やマスコミからの批判を募らせています。
しかしその評価は果たして正しいものなのでしょうか。本当にトランプは自己中の経済破壊者なのでしょうか。
トランプ大統領がこのような保護貿易政策をとる理由は、ズバリ、「アメリカの安全保障を確保するため」といえます。言い換えるならば、「侵略を強める中国を抑え込むためにも、今は保護貿易政策によって中国の貿易を見直さなくてはならない」ということです。
このように、直接経済の分野ではない安全保障や政治体制の観点から経済を見る考え方を、「経済政治学(Political Economy)」と言います。
つまり、トランプ大統領の経済政策は、経済学者やマスコミが見ている”経済学”の視点からではなく、この”経済政治学”の視点から見れば筋が通っているということなのです。
では、安全保障確保という観点から保護貿易に走ることは、突飛で理解できないものなのでしょうか。
皆さんにここで紹介したいのは、アダム・スミスの例です。スミスは「貿易は原則自由に行われなくてはならない」という主張をした人で、現在の自由貿易の思想的柱にもなっています。まさに「自由主義の父」とも言える人です。
そんな自由を愛するスミスですが、彼でさえ保護貿易を認めた事例があります。それは1651年、イギリスがオランダに対して制定した「航海条例」です。オランダの進出に対して締め出しを図った政策ですが、スミスはこれを肯定しています。
理由はやはりイギリスの安全保障確立です。自由というものは確かな安全を確保した上で成り立つ、というスミスの考えをそこには見ることができます。
このように、トランプ大統領のやり方は何も突飛なものではありません。しっかりとした理由と理論に則っているのです。
中国は現在、AIIBや一帯一路による中国化の拡大、対米貿易での多額の黒字で米国債を購入するなど、アメリカの安全を脅かしかねない政策を次々と実行しています。その現状を考えれば、安全保障を重視するトランプ大統領のやり方は一定の理解を得ることができるのではないでしょうか。
マスコミなどの意見だけではどうしても、トランプ大統領は悪者に見えてしまいます。しかし、この記事のような見方ができるのもまた事実です。
私たちは、マスコミの言うことを安易に信じるのではなく、広い視野でトランプ大統領を見ていくべきではないでしょうか。